2020/12/3 西日本新聞
単身の働き手が普通の生活をするには、税込みで月17万2488円が必要-。
・最低生計費は全労連だけでなく、連合も2003年度から試算している。17年度は単身者の額が17万円を超え、過去最高となった。
・連合は東京に最も近い県庁所在地・さいたま市をモデル地にして計算。これに独自の指数を掛け合わせ、都道府県別の金額を出す。
・それによると、福岡県の単身者は税金と社会保険料込みで月15万5千円。国の調査で使われる労働時間で割ると、時給は950円。当時の県の最低賃金789円を上回った。
・連合福岡の小陣(こじん)武志副事務局長は、新型コロナウイルス禍などで雇用不安が広がる時こそ、賃金保障の大切さが増すとみる。「解雇されて、再就職できても給料が最低賃金レベルだと生活が成り立たない」
・似た例は実際にある。福岡市の女性(71)は4月、雇い止めに遭った。コロナによる受注減が理由。長く体調不良で働けない娘(45)と、月8万円ほどの給料と年金で暮らしてきた。
・福岡県の最低賃金は20年度、時給842円。「この年齢だと求人は時給850円前後ばかり」。必要な通院を控えて節約している。
・最低賃金の低さは金額の決め方や、企業間の取引などに原因があるようだ。
・金額は、労働者の生計費と賃金、企業の支払い能力-という3要素を考慮して地域別に決める。毎年、各都道府県の地方審議会が開かれ、労使代表の委員と中立の公益委員との協議で引き上げ幅が決まる。
・審議会に労働者側の委員を出す連合の冨田珠代・総合政策推進局長は「最低生計費の調査結果を説明しても、使用者側は『それは連合さんが出した数字』と議論に乗ってこない。企業の支払い能力が重視される」と打ち明ける。
・生活に必要な商品を積み上げていく「マーケット・バスケット方式」による最低生計費の試算は、調査主体によって変動が大きいことも影響している。計算方法や必需品の考え方が違うため。連合と全労連傘下の福岡県労連が17年度、それぞれの最低生計費の結果から望ましい時給を割り出したところ、福岡県の単身者は連合950円、県労連は男女とも1500円台だった。
低さの背景は東京が時給1013円 最低の佐賀、大分など7県が792円
・さらに、大企業と中小企業の取引の慣行も影響している。下請けの中小企業は、最低賃金が見直されても人件費を契約額に上乗せすることが難しいという。冨田局長は「大手と中小企業とで、適正な取引がなされていないケースがまだ多い」とみている。金額が地域間で異なることも課題だ。20年度は最高の東京が時給1013円、最低の佐賀、大分など7県が792円。都市と地方で差が出ている。
・鳥取地方最低賃金審議会の会長を務め、会の議論を全面公開した鳥取大の藤田安一名誉教授は「若い人が賃金の安い地方から都市部に流出し、最低賃金が格差を広げている」と警鐘を鳴らす。
・労組が試算した最低生計費は、都道府県間でそれほど開きはない。藤田氏は「都市も地方も生活費は大きく変わらない。最低限の生活保障という点で、最低賃金は先進諸国のように全国一律にすべきだ」と語る。
・20年度の改定では、安倍前首相がコロナ禍の企業業績の悪化で、雇用維持を優先して大幅引き上げに慎重な姿勢を示した。毎年、引き上げの目安額を示す国の中央最低賃金審議会も据え置く結論を出した。
・しかし、賃金か雇用かの二者択一を迫る議論を疑問視する声は強い。
・静岡県立大の中沢秀一准教授は、米国の各州や韓国で中小企業に減税や社会保険料減免などの支援があるとして、「日本は企業に引き上げを押し付けている。そうではなく、社会保険料減免や補助金支給などで中小企業を支え、最低賃金を上げやすくする環境づくりが大事。そこが政治の役割だ」と話している
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