「ブラック」化に拍車、劣悪な待遇で働く「非正規公務員」のスト権までも剥奪へ

2019/11/11 今野晴貴 労働・福祉運動家/社会学者。NPO法人POSSE代表(抜粋)

 

↑  大阪衛星都市に勤務する非正規職員の報酬の経過

 

●あらたに期末手当が導入されるが手放しで喜べるのか!

・冒頭でも述べたように、20175月の地方公務員法改正により、非正規公務員の多くは20204月から「会計年度任用職員」として任用されることになる。この制度の導入により非正規公務員にも期末手当が支給できるようになるなど、一定の改善が進むかに思われた。

・しかし、次の報道にも見られるように、期末手当が増加した分、基本給を減らされ、全く改善になっていない事例が相次いで報じられている。人件費が上がらないようフルタイムをパートに切り替えたり、初任給を低く設定したりする自治体も多いという。

・参考:期末手当新設で月給減 非正規公務員、悲痛な声 来春新制度 遠い待遇改善(『西日本新聞』2019114日付) 

参考:期末手当新設で月給減 非正規公務員、悲痛な声 来春新制度 遠い待遇改善(『西日本新聞』2019年11月4日付)

・雇用についても、会計年度任用職員は一会計年度末日をもって毎年度任用期間が終了するため、相変わらず有期の任用であり、不安定なままである。

 

●スト権のはく奪にも

・さらに、非正規公務員のうち約22万人を占める特別職非常勤職員(教員、図書館司書など)のスト権が「剥奪」されることにも注目する必要がある。というのも、特別職非常勤職員にはこれまで地方公務員法が適用されていなかったため、労働組合法が適用され、スト権を含む労働基本権を有していた。

・だからこそ、練馬区の非常勤司書たちのように、ストライキを実施して雇用を守ったり労働条件の改善を図ったりすることが、法律に守られた「交渉」によって可能になってきたのである。

・しかし、会計年度任用職員に組み込まれると、地方公務員法の適用対象となり、労働組合法が適用されなくなる。つまり、スト権を失うのだ。

 

●公務員にスト権がないのは当然なのか

・「公務員にスト権がないのは当然ではないか」と思う方も多いだろう。

・しかし、公務員にスト権がないことは日本では常識のようになっているが、これは決して世界の常識ではない。世界の多くの国では公務員にもスト権が認められているし、実際に大規模なストライキが行われていることは、すでに述べたとおりだ。

・日本においては、人事院が公務員の労働条件交渉を肩代わりするという建前になっている。その正当性自体にも疑問符がつくが、非正規公務員のあまりにも劣悪な処遇がまかり通っていることを考えれば、まともに人事院が彼らの「代弁」をしているとはとても言えない。

・現実に鑑みれば、少なくとも非正規公務員から労働基本権を剥奪すべきではないことは明らかだ。

・そもそも、労働基本権は憲法で認められた基本的人権である。まともに待遇さえ保障されていない非正規公務員に対し公務員としての責任ばかりを要求し、労働条件の「交渉」をするための法的保護さえも剥奪するというのでは、あまりにもご都合主義ではないだろうか。

 

●他人事ではない“非正規公務員”問題

・以上のとおり、非正規公務員の急増は他人事ではない。私たちの暮らしを支える公共サービスの質や地域社会を守るためにも、彼らの待遇改善は急務だ。そして、私たち住民の一人ひとりも彼らの待遇にもっと関心を持つべきだろう。

 

・待遇の改善を図る上では、現場の実態をよく知る当事者たちが声を上げられる仕組みを作ることが重要だ。とりわけ、スト権をはじめとする労働基本権を行使し、公務職場における様々な課題に取り組んでいけるようにすることが求められているのではないだろうか。