「非正規」使わないに批判/深刻さ覆い隠される

2019/10/17 CUNNメール通信  NO1602   20191006共同通信配信

 厚生労働省が国会答弁などの際、非正規雇用で働く人の呼称として「非正規労働者」や、単に「非正規」という表現を使わないよう省内に求めた通知に批判が出ている。担当者は「働く人の修飾語として『非正規』はふさわしくない」と説明するが、
専門家からは「言葉の置き換えによって深刻な問題が覆い隠されるのではないか」と指摘する声が上がる。

●言葉遊び
 「厚労省通知のニュースを聞いて自分の存在が消されていくように感じた」。東京都内で契約社員として働く女性(43)はこう憤る。足に障害があって車いすが欠かせない。北海道函館市の商業高校を卒業後、水産仲卸会社に勤務したが事前の説明と違い重たい荷物を運ばされた。体調を崩して1年で退職、その後は非正規雇用の生活だ。
 現在の年収は約300万円で将来への不安が頭を離れない。「言葉を置き換えても非正規で働く人の厳しい現実は変わらない。厚労省の通知は机の上だけで考えた『言葉遊び』に過ぎない」。
 厚労省の通知にはインターネット上でも「非正規という言葉の方が実態を正確に表している」「非難されることを避ける狙いがあるのでは」と否定的な意見が相次ぐ。

●不適切な表現
 厚労省がことし8月に出した通知では原則として労働者を指す場合は、雇用の実態を表す「有期雇用」「派遣」「パートタイム」などの表現を使うように求めた。同省の雇用環境・均等局の担当者は「『非正規』は雇用形態を示し、労働者への修飾語としては不適切」と説明する。
 こうした動きは労働組合側にも。連合は今年に入り「非正規労働者」という言葉を使用しないよう決めた。「同じ働く仲間に使用する言葉として不適切」「職場内の連帯感に配慮するべき」という議論があったためだ。

●4割
 非正規で働く人は全国で2千万人超。労働者全体の4割近くを占める。バブル崩壊後に企業が正社員の採用を絞り込み、さらに規制緩和で派遣労働の範囲が拡大したためだが、最近では女性や高齢者の就業が増えたことも後押ししている。
 厚労省は同じ非正規で働く人でも「正社員を希望しながら非正規を余儀なくされている」「都合のいい時間や体力に合わせて働きたいため非正規を選んでいる」の二つの傾向があると分析。非正規雇用全体の1割強が「不本意」とみており、正社員転換にも力を入れていると強調する。
 法政大の上西充子教授(労働問題)は「非正規という言葉を使わないという通知には問題をごく一部に限定したいという意図が透けて見える」と指摘。「安倍政権が進める『多様な働き方』は法律で守られてきた正規の枠組みを崩す政策だ。賃金が低く不安定という非正規に共通する問題が言葉の置き換えで見えにくくなる」と警鐘を鳴らした。