内田樹、大阪万博に「歓喜しているのはアメリカのカジノ会社」

AERA dot 連載「eyes 内田樹」 2018/12/6

・大阪万博開催が決まってから取材が続いている。「万博開催ばんざい」一色にメディアが埋め尽くされる中で、「万博に異議あり」を公言する人がなかなかみつけにくいのだろう。確かに新聞もテレビも、広告出稿者のほとんどは万博のオフィシャルサポーターである。そのような「国民的行事」を批判するのは、メディアで飯を食っている方々にとっては職業的自殺に等しいのかもしれない。仕方なく私のようにできるだけ仕事を減らしたいと思っている捨て鉢な人間のところに、コメント発注が集まることになるのであろう。
・東京五輪招致の時もそうだった。「僕の他に『五輪反対』とコメントする人はいないの?」と訊いたら、「あとは平川克美さんと小田嶋隆さんと想田和弘さんくらいです」というお答えを頂いた。

それでも大阪万博にはいくつか異議があるので箇条書きにしておく。

(1)発信するメッセージがないこと。国力が急上昇している国が「うちの国の勢いを見てくれ」と国際社会にアピールするというのがこれまでの万博の趣向である。上海もアスタナ(カザフスタン)もそうだったし、70年の大阪もそうだった。再来年開催のドバイ万博もそういうものになるだろう。だが、今度の大阪はそうではない。「このところぱっとしないので、金が要るんです」というのがほぼ唯一のメッセージである。そんな貧相なメッセージしか発信しない万博に誰が惹きつけられるだろう。
(2)万博誘致を言い出したのは堺屋太一氏である。維新の首長たちがこれに乗った。しかし、氏がその2年前に提案した「道頓堀プール」の顛末を忘れられては困る。「東京五輪より大きな経済効果が出る」と断言していたこの事業の失敗について、私は当事者の誰一人から真摯な反省の弁を聞いた覚えがない。
(3)万博開催に歓喜しているのはアメリカのカジノ会社である。カジノ開設予定地の夢洲のインフラ整備にたっぷり税金を投じてくれるというありがたい話である。「コストの外部化」のお手本のような事例である。
(4)その他、地震や津波災害への脆弱性など問題点は無数にある。