パワハラ指針素案を提示/労働政策審議会の分科会/対象範囲をめぐり 労使が主張

2019/10/14 CUNNメール通信   N0.1607

・5月に成立したパワーハラスメント防止関連法に基づく指針素案が10月21日、厚生労働省の労働政策審議会雇用環境・均等分科会に提示された。パワハラに該当する例と該当しない例を示すとともに、事業主が講じなければならない責務を示している。
・審議では、原案通りの策定を求める使用者側と、素案が対象を狭めているなどとして改善を求める労働側とで、主張が対立している。
・指針素案はまず、パワハラの内容について(1)優越的な関係を背景とした言動(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの(3)労働者の就業環境が害されるもの――の3要件を全て満たすことが必要とした。
・素案は、精神的な攻撃や人間関係の切り離しなどパワハラ6類型ごとに、該当する例と該当しない例を提示した。「該当しない例」の表記は、セクシャルハラスメントに関する指針にはなく、例示を疑問視する声も聞かれる。
・その上で、事業主が講じなければならない措置として、管理者や労働者への周知、相談体制の整備、事実確認や懲戒処分、再発防止などの迅速で適切な対応、プライバシー保護、不利益取り扱いの禁止――などを盛り込んだ。
・他社の労働者や、フリーランスなど個人事業主、インターンシップなどの学生に対する言動にも注意を払うよう努めることとした。他社の労働者や、顧客からの著しい迷惑行為への対応にも言及。相談窓口の設置や適切な対応を行うことが望ましいとしている。
・審議では、使用者側が、混乱が生じかねないなどとして慎重対応を求め、原案を妥当とする意見を表明。労働側は「対象範囲を狭める表現が多い」「パワハラかどうかの判断の際に『労働者の主観』への配慮を盛り込んだ付帯決議を反映させるべき」などとして改善を求めた。指針策定は年内に決着させる予定だ。

指針素案の抜本修正求める/パワハラ指針で労働弁護団/「範囲を狭め、救済を阻害する」

・厚生労働省がパワハラ防止に関する指針素案を示したことを受けて、日本労働弁護団は10月21日、パワハラを助長するなどとして素案の抜本的修正を求める緊急声明を発表した。有効な防止策になり得ないどころか、「パワハラの範囲を矮小(わいしょう)化し、労働者の救済を阻害する」と厳しく批判している。
・声明は、パワハラと認められるには行為者に対し、受け手が抵抗、拒絶できない「優越的な関係」にあることが要件とされている点を問題視。「大きな力関係の差を必要とする定義で、上司と部下の関係でもパワハラから除外される危険性がある」「これまでの解釈以上にパワハラの範囲および使用者の責任を極めて限られたものに限定するもの」として、削除を求めている。
・指針素案が、労働者の側に問題行動があった場合、その内容や程度に応じて判断するとしている点にも言及している。裁判例では、勤務態度、ミス、出社前の飲酒など問題行為のある労働者に対する、度を超えた「指導」はパワハラと認められてきたと指摘。その上で「あたかも労働者の行動に問題性が高ければ、指導・叱責(しっせき)がパワハラに該当しなくなるかのような表現は、誤りであり、削除すべき」としている。
・素案がパワハラに「該当しないと考えられる例」を示していることも厳しく批判している。「『使用者の弁解カタログ』ともいうべき不適当な例示」であり、「抽象的で、幅のある解釈が可能なため、加害者・使用者による責任逃れの弁解に悪用される危険性が高い」などと指摘。この例示は「不要」とした。
・全会一致で確認された国会の付帯決議の内容がきちんと反映されていない点も指摘している。