「働き方」法案 主要部分次々延期 成立急ぐ理由乏しく

2018/2/22東京新聞  全国過労死を考える家族の会は過労死・自死を拡大する「裁量労働制」反対・・・「人の命にかかわる問題・怒りを禁じえない」

・政府は3月にも国会に提出する「働き方」関連法案について、主要部分の施行を軒並み遅らせようとしている。あらかじめ労使で決めた時間を超えて働いても残業代が支払われない裁量労働制の対象拡大についても、施行を予定より一年延期し、2020年4月施行とする方向。安倍政権は今国会を「働き方改革国会」に位置付けるが、法案の柱となる制度のスタートを遅らせることで、成立を急ぐ必要性は乏しくなりつつある。 (木谷孝洋)

 

法案:2019年4月から実施するのは大企業の残業時間規制だけ

 ・安倍晋三首相は2月21日、官邸で加藤勝信厚生労働相と関連法案の取り扱いを協議。加藤氏は会談後、記者団に「さまざまな周知や手続きを考えた時に、どういう(施行)時期がいいのかを議論している」と述べ、施行延期の検討を認めた。高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「残業代ゼロ制度(高度プロフェッショナル制度)」創設も一年遅らせる方針だ。

・両制度は労使交渉の大きなテーマとなる労働条件の変更に当たるため、現行のままでは周知や準備が間に合わないと判断。厚労省が裁量労働制に関する調査データを不適切に処理した問題を受け、周知や準備の時間を確保することで懸念を和らげる狙いもある。

・政府は、中小企業への残業時間の罰則付き上限規制、非正規社員の待遇改善を図る「同一労働同一賃金」の施行も一年遅らせることをすでに決めている。労務体制が弱い中小企業は制度変更に短期間で対応できない懸念があるためだ。予定通りに2019年4月から実施するのは大企業の残業時間規制だけとなった。

 こうした政府の姿勢に対し、立憲民主党の辻元清美国対委員長は21日の党会合で「小手先でごまかそうとしている」と批判。野党六党の幹事長・書記局長は国会内で会談し、法案の提出見送り、裁量制で働く人の労働時間の再調査を求める方針で一致した。

 

「人の命にかかわる問題を無視」 裁量制拡大 過労死遺族ら批判

 ・衆院予算委員会は21日、2018年度予算案採決の前提となる中央公聴会を開いた。

・野党推薦の公述人として出席した過労死遺族の会代表や専門家は、裁量労働制を巡る厚生労働省の不適切なデータ処理を批判し、「働き方」関連法案に盛り込まれる裁量労働制の対象拡大を撤回するよう求めた。

・寺西笑子(えみこ)・全国過労死を考える家族の会代表世話人(希望推薦)は、データ問題について「人の命にかかわる問題を全く無視している。怒りを禁じ得ない」と語った。裁量労働制の対象拡大についても「年収要件がなく、多くの若者が『定額働かせ放題』のターゲットになる。実際は裁量がない中で成果を求められ、長時間労働をやらざるを得ない。拡大すればさらに死人が増える」と強調した。

・上西充子・法政大キャリアデザイン学部教授(立憲民主推薦)は、データ問題について「裁量制が長時間労働を助長するとの指摘を野党側がしにくくなるように野党対策として作られた」と非難した。裁量制を拡大すれば「サービス残業を違法に労働者に強いている企業が合法的にできるようになる」と指摘。労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)で再度議論すべきだと主張した。

・伊藤圭一全労連雇用・労働法制局長(共産推薦)は関連法案に関し「今のままでは労働者の命と健康に悪影響を及ぼす」と訴えた。

・与党推薦の公述人は、経済情勢や財政について意見を述べた。