2015/6/3 CUNN全国ネットメール通信 〈日本労働弁護団声明〉
・2度にわたり廃案となり、今国会に3度目の上程がされた派遣法改正案について、厚生労働省が、「労働者派遣法が改正されずに2015(平成27)年10月1日を迎えた場合の問題(いわゆる『10・1問題』ペーパー)」なるペーパーを作成し、一部国会議員に配布していたことが明らかとなった。
・同ペーパーは、その冒頭に、「経済界の懸念」として「26業務に該当するかどうかによって派遣期間の取り扱いが大きく変わる現行制度のまま、労働契約申込みみなし制度(平成27年10月1日施行)が施行されることを避けたい。」と記載されているとおり、制度施行前にその適用を免れたいという経済界の要望に応えるべく作成、配布されたものであることが明らかである。同ペーパーには、労働側の意見を聞いた形跡はなく、一方的に使用者側の懸念を反映したものとなっている。
・同ペーパーは、その配布先が、与党議員及び一部野党議員であり、どの議員に配布したか厚生労働省が明らかにしていない点、また、作成者が「平成26年冬厚生労働省内において作成」とされているだけで作成主体が明確でない点、厚生労働大臣さえその存在を知らなかったとしている点など、配布手続や配布方法にいくつも問題がある。その上、以下のように、その内容にも重大な問題がある。
【『10・1問題』ペーパーの問題点】
・同ペーパーの結論部分は、「予想される問題」として、「労働契約申込みみなし制度のリスクを回避するため、派遣先が、平成27年10月1日の前に26業務(全体の42%)の派遣の受入をやめる可能性→大量の派遣労働者が失業」「加えて」「派遣事業者に大打撃」「派遣先は迅速に必要な人材を確保できず、経営上の支障が生じる」と記載されている。これを読めば、読み手は派遣労働者(現在160万人程度といわれている)の42%(67万人余り)の労働者の相当数(3割とか5割とかあるいはそれ以上)が失業するという事態を想定する。もし、このような誤解が生まれることを想定して同ペーパーが作成されたとしたら、それは明らかに「虚偽」である。厚労省の担当課長も、「42%」の失職には根拠がなく、同ペーパーが「ミスリーディング」であると認めた。担当課長は自身が作成に関与したことは認めているが、誰の決裁により作成されたものかを未だに明らかにしないという不誠実な態度に終始している。
・申込みみなし制度は、26業種に属しない業務を26業種と称してやらせていたり、形だけ26業種をやらせて、実際は単純業務をやらせている実態(また偽装請負等を間に挟む派遣法違反の実態)を是正するために設けられたものである。
・明確な専門26業種に従事している派遣労働者は多数いるが、この人たちに「解雇の危険」が及ぶ可能性はない。また、26業種該当性の有無が問題になり得る業務については、法改正(24年4月6日公布)からの3年の間に、まともな企業は対応を終えている。そのような企業はそもそも「派遣切り」をする必要がない。
・つまり、「大量の派遣労働者が失業」「派遣事業者に大打撃」「派遣先は・・・経
営上の支障が生じる」ような事態は起こりえず、このような記載は明らかにあり得ない「虚偽宣伝」で失業の恐怖をあおって法改正をすすめようとするものである。
・もし、平成27年10月1日に向けて、今から派遣切りをするような企業があれば、その企業は、24年改正法公布から3年の間もずっと違法派遣を使い続けたのであり、そのような企業は、派遣事業から退場すべきブラック企業である。そして、そのブラック企業による違法派遣を是正し、もし解雇された労働者が出た場合にはその保護の手当をするのが厚生労働省の役割であろう。
・にもかかわらず、誇大宣伝ペーパーにより、生涯派遣法案・正社員ゼロ法案とも言うべき派遣法「改正」案の成立を目指す厚生労働省の態度は厳しく糾弾されなければならない。
2015年4月28日
日本働弁護団幹事長 高木太郎
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